螺鈿(らでん)
貝殻を平らに磨き、任意の模様の形に切り抜いて漆器や木地に貼りつけ装飾としたもの。「螺」は貝を意味し、「鈿」は物をちりばめるの意である。一般に*厚貝を用いたものを螺鈿と称し、*薄貝を用いたものは*青貝塗と称している。螺鈿の起源は明らかでないが、古くエジプト王朝以前からあって中近東あたりで起ったと考えられる。その後インド、タイ、中国で発達し、わが国には奈良時代に中国唐の技法が伝わった。正倉院にその遺例が数多くある。平安時代に入ると*蒔絵と合流して和風化され、さらに室町時代には中国より青貝塗が伝わって薄貝が主流となった。その後青貝塗や*割貝が隆盛を見たが、一方*尾形光琳とその一派は古来の厚貝法を大胆に蒔絵に応用して独自の様式を築いた。螺鈿に用いる貝の種類は*夜光貝、*鮑貝、蝶貝、孔雀貝、淡貝などで、これを*砥石や電動機ですり減らして用いる。また螺鈿は貝をはめ込む工程の違いにより、埋込み法、押込み法、掘込み法の三種類ある。埋込み法は貝を漆で素地に接着し、貝が埋まるまで*漆下地と*上塗を繰り返して塗り重ね、最後に貝を研出して平らにしたものである。押込み法は貝を裏返しの図案紙に仮付けし、堅めに調合した漆下地面にそれを押込むようにして接着乾燥させ、紙を剝ぎとって研ぎならし漆塗りで仕上げたものである。掘込み法はあらかじめ貝の厚さだけ模様の形に掘込んでおいて、そこに貝を嵌め込む方法である。いずれも貝文様がまわりと同一平面になる。ただし宗達、*光悦、光琳など琳派系が行った螺鈿は、漆を一、二回しか塗らない貝がその厚みだけ凸出している。なお螺鈿にはその他割貝、*蒔貝などの技法もある。