殺掻き法(ころしがきほう)
漆液の採取の一方法で、六月から十月にかけて幹の全面に傷をつけていき、漆を取れるだけ取ったら伐採する方法である。漆を掻き取る木は苗木を植えつけてから七、八年以上して樹の周囲が二十センチを超えるくらいになったもので、木の太さにより切傷を一列にする*一腹掻きと、幹の表裏に交互に二列つける*二腹掻き、あるいは三列につける三腹掻きなどがある。一期間に採漆する木の本数は六〇〇〜七〇〇本といわれ、これを四区分して一日約百五十本の木から掻き取る。一日に一本の木に傷をつけるのは一カ所だけで、その後は順に他の区をまわって木を回復させ、四日めに再び元の区に戻るようにする。そして次第に傷の長さを大きくして傷になれさせていく。一本の木について殺掻き法の工程をみていくと、まず六月上旬ないし中旬に山に入ったら、地上より二十センチ内外のところに一〜一・五センチの長さの水平傷をつけ、その上方四十センチごとに五、六個つける。これを*目立といい、一種の目安である。そのあと四日目ごとに目立の上方に六〜八ミリ間隔で、長さを順に伸ばした水平傷をつけていき、木から出る漆液は、篦で掻き取って木の皮で作った筒状の器に入れる。傷の長さが八センチくらいになったらその後は同じ長さで傷をつけていき計二十数本つける。これを*辺掻きといい、ここから採った漆を*辺漆という。辺掻きが終ったら、一週間から十日間ほど*裏目掻きを行い、最後に*止掻きを行う。それぞれ採った漆を*裏目漆、*止漆という。これで幹からの採取は終り、漆樹を伐採して枝を切り採る。これを*瀬しめ掻きといい、採った漆を*瀬しめ漆という。以上がおよその工程で、今日わが国ではほとんど、この殺掻き法によっている。なお日本でとれる漆の量は、需要量に比べると極めてわずかで、主に他国産の漆に混ぜて質をよくする種漆として珍重されている。