花鳥蒔絵挫軾(かちょうまきえきょうしょく)
平安時代、国宝。挫軾とは脇息、つまり肘つきのことで、両脚の間に膝をいれて甲板に肘をつくのである。ただしこのように甲板が平板なもののほかに、甲板の湾曲した脇息もあり、この場合は脇において寄りかかる。この挫軾は木製で全体が*黒漆塗になっており、甲板の側面および両脚の四方に金銀の*研出蒔絵で宝相華と蝶が描かれ、甲板の側面にはさらにその上下に連珠文を連ねている。*蒔絵の蒔き方はかなり淡く荒っぽく、しかも*鑢粉が不整形なため文様の輪郭線がぼやけており、初期の研出蒔絵といえる。また甲板の側面に描かれた連珠文は奈良時代に好んで用いられた文様であり、さらに形の上でもこれと同形式のものが正倉院宝物中にあって、『東大寺献物帳』によると「紫檀木画挫軾」と出ている。これらのことから、この挫軾はまだ奈良時代の様式を受け継いでおり、平安時代の前期の作と思われる。なおこの挫軾は奈良薬師寺八幡宮の伝来品といわれ、現在は大阪市藤田美術館蔵。