宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱(ほうそうげかりょうびんがまきえそくさっしばこ)
平安時代、国宝。蓋の表中央に「納真言根本阿闍梨空海入唐求得法文冊子之筥」の文字があり、『延喜御記』に記されている記録とこの作品が一致するところから、製作年代が延喜十九年(九十九)であることがわかり、製作年代の明らかな最古の*蒔絵として貴重な品である。『延喜御記』によると空海が在唐中に経典を書き写し持ち帰った三十帖の冊子が、入寂の際に東寺におさめられたが、のち分散しそうになり勅命によって集められた。延喜十九年にこれを叡覧に供することになり、その際に冊子を収める箱として朝廷より下賜されたのがこの冊子箱というわけである。*素地は型を使って麻布を漆で貼り合わせて芯としたもので*𡑮といわれる。当時仏像の製作に盛んに用いられた*乾漆、夾紵と同じ手法によるもので、非常に薄くて軽い。形は長方形の深い被せ蓋造りで、隅が丸く塵居といって、蓋の上面から側面に移るところがなだらかにふくらみ段落がついている。また口辺に紐を巻きめぐらして、*置口のような装飾効果と共に堅牢性も兼ねている。意匠は*黒漆塗に淡く*平塵を施した上に、中央の文字を中心にして金銀の*研出蒔絵で迦陵頻伽(上半身が菩薩で下半身が鳥の姿をして、雪山に住み妙音を発し聞けどもあきることないといわれる仏教の想像上の霊鳥)、宝相華、蝶、鳥を対称的な構造で表わしている。ただし迦陵頻伽などの細部は全部異なっていて、同一文の繰り返しになっていず、その表現は絵画的である。このように規則的にみえて細部は自由に表現してあるというのは奈良時代の作品によく見られる傾向で、この冊子箱はまたそうした影響が残っている平安前期の代表作といえる。京都市仁和寺蔵。