秋野蒔絵硯箱(あきのまきえすずりばこ)
江戸初期、*五十嵐道甫の作、重文。鍚の*置口をつけた被せ蓋造りである。蓋表は三日月の夜に桔梗、菊、女郎花などの秋草が咲いている野辺の景である。技法は金*沃懸地に高肉で岩に秋草を表わし、月は鍚粉蒔、野菊の花は銀板、桔梗の花は*厚貝、女郎花は金*切金と銀切金併用、山帰来の実は珊瑚、刈萱の露には銀鋲を打つなど、さまざまの材料と技法を巧みにこなしている。また空間を広く取った構図や、細い雲に切金を置いた描法は五十嵐系独自の様式である。一方蓋裏は山岳を背景に連なる都城と、泊り舟が点在する入江という中国風の風景である。技法は*平目地に薄肉の金銀蒔絵で図柄が表わされ、蓋表と同様に精妙な切金が随所に用いられている。このように蓋の表と裏に、大和絵風の景よ漢画風の景という全く異なった趣の図柄をもってきているのが、この硯箱の特徴である。